大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1149号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人清瀬一郎、同内山弘、同佐生英吉、同田中慎介、同高橋三郎、同野村昌彦の上告理由第一点について。

被上告会社がその製造する本件商品の容器、包装および広告に、商品名として、単に「ライナー」と表示するとともに、自己の商号である「ライナービヤー株式会社」およびその英語である「LINER BEER Co.,LTD.」と表示したとしても、これをもつて直ちに上告会社らの製造するビールとの誤認混同を生ずることはないと解するのが、経験則上、相当である。したがつて、右と同趣旨の原判示に所論の違法はない。

なお、商品の容器および包装になされた商号の表示が酒税の保全および酒類業組合等に関する法律八六条の五、同法律施行令八条の三の規定に基づくものであるときは、不正競争防止法一条五号の規定に基づいてその使用の差止を求めることができない旨の原判示はいわば傍論であつて、それは原判決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであるから、右判示を違法として非難する所論は適法な上告理由とすることができない。

したがつて、論旨は、すべて、理由がない。

同第二点について。

「ライナービヤー」という表示は、「ライナー」という固有名詞に「ビヤー」という普通名詞を付加したもので、この両者を分離しうることはいうまでもないことであり、被上告会社がその製造する本件商品の容器、包装および広告に「ライナー」という表示をしただけでは、同商品の品質内容について上告会社らの製造販売するビールと誤認混同を生じさせることはないから、上告会社らは、「ビヤー」という表示だけでなく、「ライナー」という表示まで差止を求めることはできない旨の原判示は、社会通念に照らし、正当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。

同第三点について。

被上告会社が、現在および将来、本件商品について「LINER BEER」という表示を使用するおそれがあることは認められない旨の原審の判断は、証拠関係に照らし、相当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の判断ないし事実の認定を非難するに帰するから、採用できない。

同第四点について。

被上告会社が現在「ライナー黒ビヤー」を製造販売する可能性は極めて少ない旨の原審の判断は、証拠関係に照らし、相当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の判断ないし事実の認定を非難するに帰するから、採用できない。

同第五点について。

被上告会社がその製品のラベルや広告において「LINER」「LINER BEER」「LINER BEER Co.,LTD.」等の英文字を和文とともに使用している事実だけでは、被上告会社がその製品を海外に輸出するおそれがあるとはいえない旨の原判示は、経験則に照らし、正当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

《当事者》

上告人 麒麟麦酒株式会社

右代表者代表取締役 川村音次郎 外三名

右四名訴訟代理人弁護士 清瀬一郎 内山 弘 田中慎介 佐生英吉

右訴訟復代理人弁護士 高橋三郎 野村昌彦

被上告人 ライナービヤー株式会社

右代表者代表取締役 塩沢 総

右訴訟代理人弁護士 花岡隆治 斉藤兼也 田宮 甫 向山義人 鈴木光春

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例